モアブ・エディションとは または日米デジタルプリントの違いなど
夕焼けの Grand Canyon アメリカはロス・アンジェルスにおいて伝統的なシルクスクリーンの版画工房を運営していましたが、当地では1989年にデジタルプリントが産声をあげ、2000年以降にはそれまでの版画・写真に代わり、現在ではそれらの市場の90%以上がデジタルプリントとなっています。 当時は、コンピューターとプリンターという機械でできるものに、それぞれの版画工房としての特色は無いのではないかと懐疑的でした。しかし、クライアントからの要望もあり、デジタルプリントを一から学ぼうと聖地であるロス・アンジェルスで研鑽を積みはじめました。現在でも正確なプリントは20%にも満たないといわれる完璧な色管理を手にするため、パイオニアである Nash Editions の Mac や Art Scans の David 達から学ぶにつれ、彼らの”無いものは作ろう”といった独創的な機材の創作、改造などアメリカならではの自由なフロンティアスピリッツにいたく感銘を受けました。 彼らはそれまでの美術館に飾られる写真に取って代わる品質(=Museum Qualityと呼びます)を求め、NY近代美術館やシカゴ美術館、当時NeXTを運営していたスティーブ・ジョブズをも捲き込みインクや用紙・スキャナー・プリンターなどの資機材の開発や品質の向上に大きく貢献しました。 日本のプリンターメーカーが、インク・用紙なども独占・供給するのに対して、アメリカの場合はインクメーカー、用紙メーカーなどが自主独立し、開かれた市場の中でそれぞれが切磋琢磨し高品質や適正価格を維持しています。従いましてアメリカと日本のデジタルプリントの品質には大きな違いがあります。 また、それは私のシルクスクリーンの師匠 ”斉藤久寿雄=斉藤プロセス” と重なる部分があります。シルクスクリーン聡明期、美術業界からはシルクスクリーンは捺染や看板に使われるものであり、到底美術版画とは言えないと評価されなかったのですが、田中一光、粟津潔、杉浦康平といったグラフィックデザイナー達から大きく支持され、彼らの才能や業績に大きく寄与してきました。その後、アンディー・ウオーホール、ジャスパー・ジョーンズなどのアメリカ現代作家達のシルクスクリーン作品が美術市場のメインに出始めた事を受け、日本の美術業界もシルクスクリーンを美術作品と認めた経緯があります。しかしながらまだ資機材が粗悪だったためインクの代わりに油絵の具を使ったり、またインクメーカーに赴き自らインクの調色を行ったり、ナイフの代わりに剃刀の刃を使うなどの工夫やいち早く海外の機材を導入したりと、”職人=クリエーター”として先駆者としてやる事は同じなのだなと思い至りました。 その精神を受け継ぐべく、スキャ二ングからプリントまでの一貫した工房を浅間山と八ヶ岳の見渡せる佐久市に開く事になりました。 シルクスクリーンの伝統と革新的なデジタルプリントを浅間山の噴きだす水蒸気を眺めながら地球の鼓動を感じられるこの地より世界に通ずるプリントを制作していきたいと考えています。 |